アジア新風土記(89)マラッカ - 2024.11.15
企業のヤスクニ
「企業戦死」という生き方
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「成長」「夢」「成功」「感謝」がこの国の労働者を追いつめる。
「なぜ、日本の労働者は命を削ってまで働いてしまうのか?」
「なぜ、過労自殺者の遺書には、会社や取引先に迷惑をかけたと謝罪の言葉が連なるのか」
本書はトヨタ・ワタミ・電通など名だたる企業で起こった「過労死」「過労自殺」の事件を題材に、従業員に長時間労働を強い、人格までも改造しようとする日本の企業の構造的暴力と、また、労災死者の慰霊と顕彰を行う八幡製鉄所の慰霊施設を検証し、従業員の死後も企業の論理の中に取り込むメカニズムの解明に挑んだ労作である。
過労死・過労自殺問題に長年取り組んできた川人博弁護士は、企業の責任を見えにくくさせている点について、「せめて死を決意したのならば、会社に対し抗議の意思表示をして欲しいと思った。(中略)それは故人の責任では決してないし、無理難題を課している上司や会社組織にこそ、責任があるはずだ。だが、実際には、『こんなことを俺に押し付けた会社に抗議する』と書いた遺書を私はまだ見たことがない。自らの至らなさをわびて、命を絶っていく労働者たち」と書いています。
なぜ、責任を問われるべき企業や経営者に対して恨み言一つ残さず、負わなくてよい責任を背負って死を選んでしまうのか──。
本書は、文化人類学を専門とする著者が、「恥」をキーワードにして労働者の「自発的服従」を様々な角度から分析、過労死・過労自殺に向かう人びとが、まさに死に至るほどに苦しみ悩んでいるにも関わらず、自分からその負の状況を断ち切れない要因について追究して労働者の心と体を守る処方箋を提示しました。(担当編集)
Ⅰ 企業戦死への道
◆不意に死は訪れる
働き過ぎ社会の到来
過労死・過労自殺の認定とその背景
過労死・過労自殺をめぐる海外事情
◆単能労働の呪縛
二つの働き方
変質する多能
単能に呪縛された労働
◆マニュアル洗脳術
マニュアル労働=単純労働?
主体を奪うマニュアル
ディズニーの魔法のマニュアル
夢の世界の魔法は解けるのか?
Ⅱ 企業理念のポエム化
◆企業理念というポエム
企業理念の登場
メッセージ化された企業理念
「ポエム」としての企業理念
◆企業博物館というメディア
企業博物館とは?
企業博物館のケース・スタディ
企業戦士は良き家庭から
温(恩)情あふれる経営家族主義?
「家庭」、「家族」幻想(「ポエム」)
Ⅲ 死に至る服従
◆「恥」から見る服従
矛盾のループという檻
恥から見る服従
◆楽園の永住者/楽園からの逃亡者
楽園の永住者
楽園からの逃亡者
◆不正の受益者として
自己呪縛の陥穽
不正の受益者として
Ⅳ 奴隷の生を生きる
◆日本的経営の中の「ジャパニーズ・ビジネスマン」
高度経済成長期
オイルショックからバブル期まで
「失われた一〇年」からリーマンショックまで
リーマンショック以降
◆奴隷の生を生きる
パワーハラスメントの構造
もう一つの服従のシステム
Ⅴ 「企業のヤスクニ」幻想からの覚醒
◆「企業のヤスクニ」幻想のはざまで
殉職者慰霊の歴史的推移
「労災」からこぼれ落ちた存在たち
製鉄寺/高見神社と殉職者慰霊
殉職者慰霊の現在
◆言葉に投影される死者/生者の思い
「企業のヤスクニ」システムに呪縛された言葉
ヤスクニシステムからの解放を示唆する言葉
おわりに──過労死・過労自殺に陥らないために