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梅田正己のコラム【パンセ30】「歴史の偽造」とのたたかい
高文研から出版した中塚先生の最初の本は『「歴史の偽造」をただす』(1997年)である。
日清戦争における日本軍の最初の武力行使は、1894(明治27)年7月25日の豊島沖海戦ではなく、その2日前の朝鮮王宮への襲撃・占領であったことを、参謀本部の公刊戦史の草稿(下書き)によって実証・暴露された力作だった。
そのあと『歴史家の仕事』(2000年)
『これだけは知っておきたい日本と韓国・朝鮮の歴史』(02年)に次いで
4冊目『現代日本の歴史認識』(07年)を出版されたが、そこでも1875(明治8)年の江華島事件の要因は通説のような飲料水を求めての寄港などではなく、初めから侵攻を意図しての攻撃だったことを新史料にもとづいて明らかにされた。
※只今品切
※2022年増補改訂版発行
※只今品切
先生による「歴史の偽造をただす」は、言いかえれば「歴史認識の修正」である。
その修正も、上記のような重大な歴史的事実の場合は「歴史認識の根底からの修正」となる。
先生のとくに後半生の「歴史家としての仕事」は、学界を含め、世間に流布している、誤った、あるいは歪んだ歴史認識を修正する(ただす)ことにあった。
先生が批判の主目標とされたのが、「栄光の明治」史観である。
明治維新に始まり、日清・日露戦争の勝利によって日本を先進諸国と肩を並べる地位に押し上げた「明治」は、偉大な時代だったという歴史認識だ。
それは「日本ナショナリズム」の基層として、今も脈々と息づいている。
その集中的表現が、司馬遼太郎の代表作「坂の上の雲」である。
その大作をNHKがドラマ化し、2009年から11年にかけ3年がかりで放送するという大型企画が判明した。
その企画に、「歴史の偽造」拡大再生産の危機を感じとられた先生は、09年春、急きょ『司馬遼太郎の歴史観』を執筆・出版されたのだった。
この「スペシャルドラマ」は毎回、次のナレーションで始まった。
――「まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている」。
実際、ドラマの第1回のタイトルは「少年の国」となっていた。
しかし歴史の事実は、その「開化期」を前にした「少年の国」が、明治7年には早くも3千の兵力で台湾に出兵し、翌8年には江華島事件により軍事力を誇示して、朝鮮国に欧米列強以上の不平等条約「日朝修好条規」を強要調印させ、3年後の12年には軍隊と警官隊による武力をもって琉球王国を「併合」したのである。
このスペシャルドラマを、NHKは今年(2024年)9月から毎日曜の夜、再放送した。放送は全26回、来年まで続く。
ちなみに文庫版『坂の上の雲』の発行部数は累計2000万部、「歴史の偽造」は今なお進行中なのである。
先生は『司馬遼太郎の歴史観』を引き継いで、19年、『日本人の明治観をただす』を出版、これが「遺書」となった。
(高文研・前代表 梅田正己)