アジア新風土記(89)マラッカ - 2024.11.15
徐京植 回想と対話
「徐京植」を読むとはどういう意味を持つのか。
朝鮮戦争勃発(1950年。53年休戦協定調印)の翌年に、在日朝鮮人二世として京都に生まれた作家・徐京植による回想はそのまま戦後の東アジアの歴史(特に朝 鮮半島と日本の関係史)に直結する。
徐が大学生の時に、兄二人がスパイ容疑をかけられて韓国軍事政権によって逮捕 され苛烈な拷問を受けたにもかかわらず転向せず、刑務所に長期収監された。徐 の20~30代の大半は兄たちの救援活動に占められた。冷戦終結と並行して韓国の民主化が進み、兄たちが釈放された。
韓国と同様に民主化が進んだ近隣諸国からは戦争被害者たちの加害者(日本)に 対する責任追及・賠償要求の声があがった。
責任を問われた日本では歴史修正主義が台頭し、侵略戦争と植民地支配の責任を 否認する歴史認識が日本社会に浸透していった。その中で兄たちの救援活動から 大学教育へと「現場」を移した徐京植は、歴史認識論争を中心とした言論活動を 展開していった。
2000年に東京経済大学の専任教員として就職して以降、教育者として「人権」 「差別」「戦争」「マイノリティ」をテーマに教養教育を担当、また『季刊前 夜』を立ち上げるなど言論・文化の発信者として活動してきた。
本書がトレースする作家・徐京植の言論・文化・教育活動は、文学・芸術・音 楽・歴史・思想・哲学を横断するもので、読者は稀有な「人文主義者」の足跡を たどりながら、越境する知的興奮を味わえる1冊となっている。
早尾貴紀
第Ⅰ部 自己形成と思索の軌跡
◆最終講義 人文教育としての「芸術学」 徐京植
◆徐京植、著作を語る
聞き手:早尾貴紀・戸邉秀明・李杏理・本橋哲也・高津秀之
◆徐京植氏の言論活動と在日朝鮮人──世代間の対話
出席者:徐京植・趙慶喜・崔徳孝・李杏理
第Ⅱ部 日韓にわたる批評活動の多面性──その意義とインパクト
◆「在日」を考えることと生きること 鵜飼 哲
◆責任について、問い続けること──四半世紀の対話から 高橋哲哉
◆徐京植の著作を通じて見た韓国社会、文学、その影響と刺激 権晟右
◆越境する美術批評──美術史家・翻訳者として徐京植を読む 崔在●
◆徐京植からの応答
◆comment1 「在日朝鮮人の昭和史」というアポリア──徐京植氏とポストコロニアリズム 本橋哲也
◆comment2 徐京植さんはいかにして人に影響を与えるのか──「徐スクール」の一員として 澁谷知美
◆徐京植氏による問いと思想的拡がり 李杏理
第Ⅲ部 芸術表現をめぐる二つの対話
◆対論 映像制作を共にした二〇年 鎌倉英也・徐京植
◆対談 沖縄という場所からアートを考える 佐喜眞道夫・徐京植
◆徐京植・年譜および主要著作一覧
◆謝 辞 徐京植
◆あとがき 戸邉秀明