アジア新風土記(89)マラッカ - 2024.11.15
献身
遺伝病FAP(家族性アミロイドポリニューロパシー)患者と志多田正子たちのたたかい
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FAP(家族性アミロイドポリニューロパシー)は、おもに肝臓でつくられる特殊なたんぱく質が神経や臓器に溜まり、やせ衰え、やがて死を迎える遺伝性の神経難病。根治療法はなく、唯一の対症療とされるのが肝臓移植である。
本書は、突然、きょうだいが倒れてその看護に追われていた一人の女性が、同じ病院に似たような症状で入院している患者がいることに気づいた。きょうだい同様に看護に奔走するなかで、FAP患者たちが置かれた過酷な状況を目の当たりにしたところから、彼女と患者たちのたたかいの幕が上がる。
死と向き合うFAP患者と、彼らが生を全うするために全身全霊を捧げた女性の壮絶なたたかいを追った、胸に響く魂のルポルタージュです!
■第18回日本自費出版文化賞 『研究・評論部門』 受賞!!
【編集者より】
FAPという病気のことは、著者から原稿を渡されたときに初めて知りました。
最初は「この世にこんなに人間を苦しめる病があっていいのか……」という高ぶった感情が、読み進むにつれて、「自分だったらどうするだろう?」という、自身への問いかけが大きくなりました。
それは、根治療法はいまだ見つかっていませんが、脳死肝臓移植・生体肝移植で命が助かるようになったこと、遺伝子検査の技術が進んだ結果、出生前診断が可能になったことを知ると、家族とは何か、自分の子どものパートナーがFAPの遺伝子を持っていたら、生命倫理……など、次々と答えを容易に見つけられない問題が浮かび、考えさせられました。
本書は、FAPという病気をめぐる人びとの苦闘・葛藤を描いたものですが、そこで生じる根源的な問いかけは、すべての読者に共有できるものだと思います。
Ⅰ 献身──志多田正子のたたかい
1 志多田正子とFAPの出会い
◆帰 郷
◆志多田流〝愛のリベンジ〟
◆日本で最初のFAPの診断例
◆FAPの歴史
◆きょうだいたちの死
◆「患者を人間として扱ってほしい」
◆患者が心を開くとき
◆家庭訪問──自宅で息をひそめて暮らす患者たち
2 患者たちの叫び
◆届かぬ思い
◆ある女性患者の日記
◆逃げずにたたかうことができるか
◆すべて患者から教わった
3 病気の解明、治療法を求めて
◆「医者は敵」から同志へ
◆解剖の説得と罪の意識
◆FAP患者を見送るということ
4 患者会の発足
◆スウェーデンのFAP患者との出会い
◆「生きている証」──文集をつくる
◆「俺たちは人間だ。石ころとは違う」
◆医師に対する視線──患者の本心
◆患者会の発足
Ⅱ 波紋──「臓器移植」がもたらしたのは……
1 肝臓移植の登場
◆スウェーデンで初の脳死肝臓移植
◆移植第一号
◆募金活動──新たな苦悩
◆揺れる患者たちの心
◆「募金は人を狂わせる」
◆志多田のめいが遺した言葉
◆移植を受けられない患者たちの苦悩
2 海外移植第一号
◆大きな「十字架」を背負って
◆帰国後に生じた「心の距離」
◆追いつめられて
3 その後の海外移植
◆移植できる人とできない人
◆スウェーデンで移植を受けた最後の二人
◆オーストラリアでの移植
4 病と向き合う──星下一家の場合
◆父の決断
◆息子に託された命
◆娘にも襲いかかる試練
◆生きる理由
◆命のバトン
5 揺れる患者会
◆「何のために生きているのか」
◆文集「道しるべ」の存在
◆患者会の旅行
Ⅲ 葛藤──広がる生体肝移植
1 広がる生体肝移植
◆夫から妻へ
◆手術後に変わった夫婦の関係
◆妻から夫へ
◆ドナーとなった妻の苦悩
◆予想を超えた術後の苦痛
◆夫婦の危機
◆義父から子どもへ
◆恋人が結婚してドナーに
2 生体肝移植が抱える複雑な問題
◆ドナーの苦悩
◆拡大するドナーの範囲
◆ドミノ移植について
◆「移植はしない」という選択
3 二分の一の確率──問われる「親の生き方」
◆「なぜ黙っていたのか」
◆「父には感謝している」
◆親が抱える苦悩
◆重き荷を背負って
◆子どもを産むという選択
◆子どもにどう伝えるか
◆遺伝子診断がもたらしたもの
◆発症の可能性とどう向き合うか
4 母が遺したもの
◆親から子へ
◆娘への思い
◆最後の言葉
◆娘たちの思い
◆「母から生まれてきてよかった」
◆母と同じ病に
◆小さいころからFAPと向き合ってきた
エピローグ 志多田正子から託された〝遺言〟
参考文献
大久保真紀(おおくぼ まき)
朝日新聞編集委員。1963年福岡県生まれ。国際基督教大学卒業。
87年朝日新聞社に入社。盛岡、静岡両支局を経て、東京本社社会部、くらし編集部、西部本社社会部などに在籍。2002年4月から編集委員になり、06年4月から約2年間、鹿児島総局次長を務めた後、現職。
【主な著書】
『児童養護施設の子どもたち』(高文研、2011年)
『虚罪─ドキュメント志布志事件』(岩波書店、2009年、共著)『中国残留日本人─「棄民」の経過と、帰国後の苦難』(高文研、2006年)
『ああわが祖国よ─国を訴えた中国残留日本人孤児たち』(八朔社、2004年)
『こどもの権利を買わないで─プンとミーチャのものがたり』(自由国民社、2000年)
『買われる子どもたち─無垢の叫び』(明石書店、1997年)