アジア新風土記(89)マラッカ - 2024.11.15
ドキュメント横浜事件
戦時下最大の思想・出版弾圧事件を原資料で読む
著者 | 横浜事件・再審裁判=記録・資料刊行会 編 |
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ジャンル | 社会 > 言論 |
出版年月日 | 2011/10/03 |
ISBN | 9784874984673 |
判型・ページ数 | A5・640ページ |
定価 | 本体4,700円+税 |
在庫 | 在庫あり |
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アジア・太平洋戦争下、特高警察は国際政治学者・細川嘉六を中心に「共産党再建謀議」の容疑で編集者、研究者ら63名(氏名確認)を検挙、その証拠(自白)を得るため凄惨な拷問を加えた(獄死者5名)。3年にわたったこの事件は、治安維持法とは何だったか、特高とはいかなるものだったかを余すところなく語る。
戦後、特高を告発した32名の口述書(拷問の記録)をはじめ、特高月報・判決書など警察・司法の側の資料を含む原資料により、言論・人権暗黒時代の実相を伝える。
横浜事件の“枕ことば”は、「戦時下最大の言論弾圧事件」というものです。
しかし出版史を振り返ってみると、これ以上の弾圧は見あたりません。なにしろ、20名を超える第一線の編集者が検挙されて凄惨な拷問にさらされた上(うち2名は獄死)、当時の知識層を対象とする代表的な総合雑誌2誌を出版していた出版社(中央公論社と改造社)が廃業させられたのです。
横浜事件は「戦時下」だけではなく、この国の出版史上最大の弾圧事件だったと言わなくてはなりません。
が、それにしては、この事件は名前だけは知られていますが、その実相・実態についてはよく知られているとは言えません。
今回の3部作の1冊『ドキュメント横浜事件』は、当時の原資料によって事件を再構成したものです。治安維持法はどんな法律だったのか、特高警察はいかに暴虐の限りを尽くしたか、また軍部がいかに横暴であったか――要するに日本ファシズムがどのようなものあったかを、原資料によって示したものです。
資料の中には今日の読者には読みづらいものもありますので、全部の資料に「解題」をつけ、その位置づけと意味について説明しています。
“歴史の現場”に立ち会う思いで読んでいただけたら、と希望しています。
この再審請求を行ったのは1986年、刑事補償請求の満額獲得で終わったのが昨2010年、24年の歳月を費やした裁判でした。この24年の総仕上げとして、刑事補償金のすべてを投入して製作したのが、この3部作です。
被害者がやっつけ裁判で有罪を宣告されたのは日本敗戦の直後、1945年。それから65年をへて、それが冤罪であったことが明らかにされました。
たんなる冤罪ではありません。特高警察と司法という国家権力が共同でフレームアップした虚構の事件による冤罪、つまり「権力犯罪」による冤罪です。
その冤罪を裁判所が認めるまでの裁判の全過程を追ったのが、『全記録:横浜事件・再審裁判』です。法律家、法学研究者に備えておいてほしい本です。
また24年にわたるこの裁判の軌跡をたどり、第二次・四次請求団の立場で総括したのが『横浜事件・再審裁判とは何だったのか』です。特高警察によって仕組まれた横浜事件の全容を知り、戦後40年をへてなぜ再審請求に立たねばならなかったのか、またそこで明らかにしたものは何だったのか、本書で明らかにされます。
近代日本の言論史に刻まれた「負の極点」として、横浜事件の実相が広く知られ、言論・出版の自由の後戻りを許さぬ歯止めとなることを願っております。
はじめに──本書の構成について
Ⅰ 横浜事件発生当時の言論状況と細川論文
事件発生当時の言論・出版状況
──畑中繁雄著『日本ファシズムの言論弾圧抄史』から
細川嘉六
「世界史の動向と日本」(要約・抜粋)
細川論文鑑定書 今井 清一
細川論文鑑定書 荒井 信一
細川論文鑑定書 波多野 澄雄
Ⅱ 論文“摘発”前後の『改造』編集部
『改造』編集部員の証言
──青山憲三著『横浜事件・元「改造」編集者の手記』から
「細川論文」担当編集者・相川 博の「手記」
──神奈川県警察部特別高等課
細川論文を摘発した陸軍報道部員の証言
──平櫛 孝著『大本営報道部』から
Ⅲ 横浜事件の「構図」
海野普吉弁護士が語る横浜事件の全体像
──海野普吉『ある弁護士の歩み』から
横浜事件の犠牲者
──小野康人『文藝春秋』一九五六年10月号から
特高警察が描いた横浜事件の「構図」
──『特高月報』〈神奈川県に於ける左翼事件の取調状況〉
Ⅳ 細川嘉六訊問調書(抄録)と予審終結決定
細川嘉六獄中調書
細川嘉六・相川 博=予審終結決定
Ⅴ 横浜事件・もう一つの発端──「米国共産党員事件」
発端・米国共産党の幻影
──横浜事件検挙第一号の川田夫妻
(中村智子著『横浜事件の人びと・増補版』から)
川田定子・供述書
川田 寿「起訴状」
Ⅵ 「政治経済研究会」(昭和塾)グループ事件の
虚構と事実
昭和塾事件と海野先生
──高木健次郎(『弁護士海野普吉』から)
浅石晴世の想い出
──高木健次郎(『横浜事件関係者追悼録』から)
高木健次郎=予審終結決定
板井庄作=予審終結決定
森 数男=予審終結決定
白石芳夫=予審終結決定
小川 修=判決
Ⅶ 家族にとっての横浜事件
小野 貞=供述書
小鳥のくる庭で──西尾未亡人の回想
(中村智子著『横浜事件の人びと・増補版』から)
西尾忠四郎さんのことなど
──小林英三郎(『横浜事件関係者追悼録』から)
「キタロウシス」──気賀すみ子
(小野 貞・気賀すみ子『横浜事件・妻と妹の手記』から)
和田喜太郎=判決
父を奪われて──平館道子
──少女の私が見た横浜事件
歯を全て失って帰ってきた父──ふじた あさや
──少年の私が見た横浜事件
Ⅷ 残存するその他の予審終結決定と判決
畑中繁雄=予審終結決定
小森田一記=判決
益田直彦=判決
手島正毅=判決
Ⅸ 「泊会議」の虚構とその消滅
相川 博の「手記」
平館利雄の「手記」
平館利雄=「証人訊問調書」
木村 亨の「手記」
「紋左」女将・柚木ひさのことなど──奥田淳爾
──(『泊・横浜事件 端緒の地』から)
柚木ひさ=「予審訊問調書」
平柳梅次郎=「予審訊問調書」
雑誌編集者から見た横浜事件──橋本 進
小野康人=予審終結決定
小野康人=判決
木村 亨=予審終結決定
西尾忠四郎=予審終結決定
Ⅹ 裁判記録の焼却とやっつけ裁判
横浜事件の裁判──海野普吉
(海野普吉『ある弁護士の歩み』から)
茶番劇の終幕──青山鉞治
(『横浜事件・元「改造」編集者の手記』から)
敗戦時の内務官僚の座談会
(自治大学校史料編集室「山崎内務大臣時代を語る座談会」から)
特高警察による「拷問」の実態
◆三二人の口述書
相川 博/青木 滋/青山鉞治/安藤次郎/内田丈夫/大森直道/小川 修/
小野康人/勝部 元/加藤政治/川田定子/川田 壽/木村 亨/小林英三郎
/小森田一記/高木健次郎/手島正毅/仲 孝平/西沢富夫/畑中繁雄/彦坂
竹男/平館利雄/廣瀬健一/藤川 覚/益田直彦/松本正雄/水島治男/美作
太郎/山口謙三/由田 浩/若槻 繁/渡辺公平
● 裁かれた特高警察官たち
三三名の告訴状
告訴の趣旨
告訴事実
横浜地裁判決
東京高裁判決
最高裁判決
元特高警察官弁護人上告趣意書
終わりに──二つの資料集のこと
資料の収録について──高木健次郎
横浜事件関係人名録
(中村智子著『横浜事件の人びと・増補版』から)
■参考図書
横浜事件・再審裁判=記録/資料刊行会
2010年2月、「無罪の証明」として裁判所から支払われた刑事補償金により、24年間にわたった再審裁判の記録と横浜事件の資料を刊行することを目的に設けた会。第1次、2次、4次再審裁判をになった請求人・弁護団・支援する会事務局により構成。