アジア新風土記(89)マラッカ - 2024.11.15
本土決戦の虚像と実像
一度は訪ねてみたい戦争遺跡
幻ではなかった本土決戦の虚像と実像
著者 | 山田 朗 監修 日吉台地下壕保存の会 編 |
---|---|
ジャンル | 人文・歴史書 > 歴史 |
出版年月日 | 2011/08/17 |
ISBN | 9784874984642 |
判型・ページ数 | 4-6・208ページ |
定価 | 本体1,500円+税 |
在庫 | 品切れ・重版未定 |
アジア太平洋戦争末期、本土決戦に備え、国民を根こそぎ動員して造られた壕や要塞。
慶應大学日吉キャンパスの地下に掘られた「聯合艦隊」最後の司令部壕をはじめ、今も残る戦争の重要遺跡をそれぞれの地域の研究者が案内する!
戦争を語り継ぐ人は減少する中で、戦争の記憶を風化させないために、「ひとから」「モノ」=戦争遺跡に語り継がせる必要性を訴える!
2011年8月6日、第15回戦争遺跡保存全国シンポジウム・横浜大会が、慶應大学日吉キャンパスで開催されました。「戦争遺跡を平和のための文化財に!」をテーマに全国各地からおよそ400名が参集しました。本書はこの大会の記念出版として作られたものです。
前日の実行委員会の会場に届けることができて、まずはホッとしました。今度は多くの読者に出会って、多く読んでいただくことを願うばかりです。
アジア太平洋戦争末期、東京湾を中心とする本土決戦体制はどのように準備されていたかを、主に首都圏各地の戦争遺跡を保存・活用する方々に執筆いただきました。
それぞれの原稿を読むと、本土決戦体制は国民を守るためのものではなく、「国体護持」のためであったこと、そのために国民は総動員されたことがはっきりします。軍隊は住民を守るものではないことを教えてくれます。
なお、人の遺した手紙や日記、遺書なども「人の遺したモノ」です。そう考えて人間の戦争遺跡として、特攻隊員として死んでいった上原良司さんをとりあげました。
8月6日の朝日新聞朝刊の別刷り、「be」(通称青be)の2面「ランキング」も、【訪ねてみたい戦争遺跡】を取り上げていました。ひめゆりの塔など、観光スポットのものが上位にランクされていました。本書関連では、松代大本営が入っていました。
こういう場所で「戦争遺跡」が取り上げられることは、重要だと思います。
私個人としては、松代大本営、登戸研究所資料館、日吉台地下壕、横須賀の地下壕群などは訪ねたことがあります。来年には房総半島の戦争遺跡をフィールドワークしてみたいと思います。Ⅱ章の筆者の愛沢伸雄さんに戦争遺跡シンポの場でお願いをしました。
昨年は『沖縄陸軍病院南風原壕』を出版し、戦争遺跡を文化財に指定し、保存・活用の先駆的な取り組みをする沖縄の南風原(はえばる)町の記録をまとめました。戦争体験を語り継ぐ人が減少する中、「モノ」=戦争遺跡に語り継がせる流れを、地方自治体の運動として記録しました。
今年は戦争遺跡保存全国ネットワークの長年の調査・研究の成果を、東京湾の本土決戦体制で括り、一冊にまとめることができました。
ぜひとも本書を手にして、それぞれの戦争遺跡を訪ねてください。
*継続は力
*本土決戦体制研究の今
*戦争の追体験の旅に活用を
Ⅰ 〈本土決戦〉とは何であったのか ■山田 朗
はじめに
Ⅰ〈本土決戦〉への道
1国力の差が戦力の差となって現れた一九四三年
2戦線が一挙に崩壊した一九四四年
Ⅱ〈本土決戦〉体制の構築
1本土防衛から〈本土決戦〉準備に
*〈本土決戦〉構想の登場
*作戦準備進捗せず
*例外的に準備が進捗した分野=松代大本営と風船爆弾
2〈本土決戦〉準備の本格化
*レイテ決戦から〈本土決戦〉へ
*本格化する〈本土決戦〉準備
*〈本土決戦〉のための兵力・労働力動員
*〈本土決戦〉作戦計画の策定
3〈本土決戦〉準備の実態
*〈一億玉砕〉〈総特攻〉思想の台頭
*作戦予定地域における戦闘準備
おわりに
Ⅱ 房総半島南部における本土決戦体制 ■愛沢伸雄
*東京湾要塞の建設
*房総半島南部の本土決戦準備
*関東防衛の「決三号」作戦
*房総半島南部における東京湾兵団
*本土決戦を前に女生徒たちは
*安房高女「学校工場」への空襲
*本土決戦の「偽陣地」づくり
*本土決戦体制下における安房の特攻基地
*本土決戦部隊の編成と水際陣地づくり
*アメリカ軍による本土侵攻事前作戦
*房総半島を本土決戦場に
*アメリカ軍の関東侵攻「コロネット」作戦
*房総半島南部に配備された兵士の姿
*「根こそぎ動員」のもとで決戦部隊の実態
Ⅲ 本土決戦に向けた
海軍連合艦隊(海軍総隊)地下壕と三浦半島 ■新井揆博
1横浜・日吉に上がって来た海軍司令部
*海軍と慶應義塾日吉キャンパス
*陸に上がった連合艦隊司令部
*連合艦隊司令部地下壕の設営作業
*海軍総隊司令部の新設
*本土決戦準備
*海軍の総兵力は──
2本土決戦に対する三浦半島の陣地構築
*飛行基地の整備
●野島・夏島大型隧道の設営実態
●「桜花」43乙型射出基地の整備
●三浦半島の長井・初声地区の戦備
*水上水中特攻基地
●第一一突撃隊基地
●第七一突撃隊(伏龍)
Ⅳ 陸軍登戸研究所と謀略戦 ■渡辺賢二
1謀略作戦としての風船爆弾作戦
2本土決戦体制と登戸研究所
3陸軍登戸研究所とは
①軍科学研究所と秘密戦研究
②陸軍科学研究所登戸実験場・登戸出張所の設置
③陸軍第九研究所、第九陸軍技術研究所へ
4明治大学平和教育登戸研究所資料館
Ⅴ 国体護持に備えた松代大本営 ■目沢民雄
*極秘の松代大本営計画
*大本営とは何か?
*松代大本営構築計画
*大動員での工事準備
*労働者の中心は強制連行された朝鮮人
*人海戦術に頼った「マ(10・4)工事」
*戦局の逼迫、本土決戦へ
*天皇の御座所工事
*生命線の通信施設建設
*「賢所」造営の顛末
*天皇の松代への移動計画
*国体護持とは
*国民の惨苦と国体護持
*私の記憶から
*国体は護持されたか
Ⅵ 人間の戦争遺跡・上原良司の思索 ■亀岡敦子
*戦没者の遺稿集の出版
*徴兵制度と学徒出陣
*特別攻撃隊(特攻)とは
*上原良司と三通の遺書
*上原良司の故郷・安曇野と自由民権運動
*祖父・俳人上原三川
*父母と兄たち、そして妹のこと
*学校の影響─松本中学校(現松本深志高校)と慶應義塾大学
*第一の遺書は愛読書『クロオチェ』に二〇歳一一カ月で
*陸軍新兵として
*第二の遺書は二一歳一〇カ月で
*特攻隊員となって
*第三の遺書は二二歳八カ月、出撃前夜に
*父母の戦後と妹たちの戦後
※戦争と軍隊に関する歴史用語解説
陸軍と海軍/軍人勅諭・大元帥/戦陣訓/靖国神社/忠魂碑/皇軍/軍事予算/大東亜共栄圏/皇民化/大本営/階級と勲章/参謀本部・軍令部/師団・旅団・連隊・大隊・中隊・小隊/機動部隊、連合艦隊/憲兵、軍法会議/陸軍士官学校・海軍兵学校/中野学校/徴兵・徴兵検査・赤紙/内務班/学徒出陣・学徒兵/予科練/特攻隊/「玉砕」「転進」/「集団自決」「(強制)集団死」/国体護持・御前会議/教育勅語・御真影・奉安殿/国定教科書/国家総動員法、軍機保護法など/学徒勤労動員/軍事教練・配属将校/学童疎開
■本書に関連する団体の連絡先
山田 朗(やまだ・あきら)
1956年生まれ。明治大学文学部教授(日本近現代軍事史)、登戸研究所資料館館長。歴史教育者協議会委員長。主な著書に『大元帥・昭和天皇』(新日本出版社)『軍備拡張の近代史』(吉川弘文館)『これだけは知っておきたい・日露戦争の真実』(高文研)ほか。
日吉台地下壕保存の会
旧帝国海軍が、慶應義塾日吉キャンパスに残した連合艦隊司令部地下壕などの戦争遺跡の調査研究・保存・活用・資料館の実現をめざして、1989年4月に発足。幅広い市民の参加のもと、貴重な遺産を後世に伝えるために、見学会や講演会などさまざまな取り組みを行っている。