アジア新風土記(89)マラッカ - 2024.11.15
日本の柔道フランスのJUDO
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柔道愛好者60万人、子どもの重大な柔道事故ゼロを誇る柔道大国フランス。一方、日本の柔道家は17万人、30年間(1983~2013年)で118人の中高生が学校柔道で死亡している。日仏の柔道を経験した五輪銀メダリストによる、日本柔道界から重大事故・暴力・体罰・セクハラを根絶するための具体的提言!
2012年末、女子柔道強化選手15人が、全日本女子ナショナルチーム監督をはじめとした指導陣による暴力行為やパワーハラスメントを受けていたことを告発した事件をきっかけに、全柔連の助成金不正受給、全柔連理事のセクハラ、名門大学柔道部の暴力事件などが次々に明らかにされ、日本柔道界は危機的な状況に陥った。
著者・溝口紀子氏は、バルセロナ五輪(銀メダル)・アトランタ五輪に連続出場した、山口香選手と並ぶ、女子柔道選手のパイオニア的存在で、上記の事件に関しても、当事者である女子柔道選手たちからの相談を受け、積極的に発言し、リーダーシップを発揮した。
本書の【第1部】は、溝口氏が柔道との出会い、強くなるにしたがって気づいていった、暴力・利権・タテ社会でがんじがらめになった「柔道ムラ」の存在、「柔道ムラ」を拒否したがゆえの激しいいじめと闘いながら、頂点を極めた現役選手時代。
さらに、今の日本柔道界を覆う勝利偏重主義がなぜ生まれたのか、その歴史的背景を読み解きながら、日本柔道の宿痾を取り除く方策を考える。
【第2部】は、現役を引退して、フランスナショナルチームのコーチとなって知った「フランスのJUDO」の魅力を、日本柔道と比較しながら考察する。
特に、ロンドン五輪でチャンピオンとなったフランスの選手が語った柔道観は、硬直した日本柔道に風穴を開ける、衝撃のインタビューとなっている。
【編集者より】
日本社会には、さまざまな「ムラ社会」があります。学校・部活・会社・業界・地域など、あらゆる組織に利権や権威主義が根を下ろし、人びとは自由に物が言えない生きづらさを抱えながら日々を暮らしています。
本書は、スポーツの中でも、特に「御家芸」と言われ、オリンピックでメダルの獲得が期待される柔道で頂点を極めた柔道家による、「柔道ムラ」批判の本です。
小学生で柔道を始めた著者は、中学2年で全日本3位となり、地元の強豪校からスカウトされました。しかし、著者は地元柔道界を牛耳る指導者の暴力体質を嫌い、周囲の圧力(例えば、「抱き合わせ」と呼ばれる、有望選手が入学すれば練習相手として数人がその学校に入学できる特例措置=利権)をはねのけ、自力で地元の進学校に進みます。高校時代は、「柔道ムラ」から飛び出したがゆえに、出稽古を拒否されたり、試合でも不可解な判定に耐えながら、当時チャンピオンであった山口香選手を倒すまでに成長しました。
著者の現役時代は常に「異端視」されていましたが、引退後、フランス柔道ナショナルチームのコーチとなったことで、日本柔道の宿痾とも言うべき、権威主義・暴力体質・勝利偏重主義などの存在に気づいていきます。
2012年のロンドン五輪では、男子柔道は金メダルゼロに終わりました。他国の選手に勝るとも劣らない豊富な練習量を誇る日本人選手たちは、なぜ金メダルに届かなかったのか。日本柔道の〝弱点〟は何か。
本書は、柔道の頂点を極めた著者が、自らの体験とフランスで学んだことをベースに、日本柔道に対する改革の思いを縦横に語り尽くした、著者渾身の労作です。
★第1部 「柔道ムラ」解体宣言──勝利偏重主義の呪縛を解く
Ⅰ 柔道ムラの異端児の誕生
柔道は「ケガがつきもの」「男がするもの」
「女が男に勝つ」──ジェンダーフリーの快感
学校でのいじめ体験
暴力が支配する世界
柔道ムラを飛び出す
「部活動ムラ」の誕生
なぜ、部活動の指導者が生徒やクラブを私物化してしまうのか?
暴力無しでもちゃんと成果は出せる
四面楚歌──高校時代に身につけた「生きる知恵」
「生きづらさ」を「生きる術」に変える
勝つために必要な「自己肯定感」
Ⅱ なぜ、勝利偏重主義が生まれたのか
戦後の柔道復活の動き
国際柔道連盟の発足
国際柔道連盟と全日本柔道連盟との確執
東京五輪とヘーシンク勝利の衝撃
全日本学生柔道連盟(学柔連)の発足
全柔連と学柔連の紛争
Ⅲ 日本柔道クライシス
相次いだ不祥事
女子柔道の台頭
機能不全に陥った全柔連
全柔連の組織改革
全柔連の評議員に就任
柔道事故防止に取り組み始めた全柔連
★第2部 フランスのJUDO、日本の柔道
Ⅳ フランスのスポーツ行政事情
▼フランスのスポーツ行政組織
フランスの強化システム
フランスのスポーツ連盟
日本の柔道登録者数と指導者資格について
フランスのスポーツ指導者制度
スポーツ指導者の職業免許制度
フランスの柔道指導者免許
遊びを取り入れた教育的なフランス柔道
「めざめの柔道」の意味
日本の柔道が発展するために
■Ⅴ フランス柔道の指導者と選手の考え方
フランスでは「沈黙は罪」
デルバンから学んだこと
暴力ではなく、エビデンス(言語化)の活用
フランス柔道の特徴──ピーキングを取り入れる
これからの日本柔道に必要なもの
「白線黒帯」と「黒帯」の間にある根深い問題
世界女王・デコス選手のインタビュー
■あとがき
溝口紀子(みぞぐち のりこ)
1971年静岡県生まれ。スポーツ社会学者。92年、バルセロナオリンピック女子柔道52㎏級銀メダリスト。96年アトランタオリンピックにも出場。2002~04年、日本人女性で初めてフランスナショナルチームのコーチを務める。現在、静岡文化芸術大学文化政策学部国際文化学科准教授、静岡県教育委員会委員長(2014年就任)。