アジア新風土記(89)マラッカ - 2024.11.15
新採教師の死が遺したもの
法廷で問われた教育現場の過酷
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教壇に立ってわずか半年で自ら命を絶った新採教師の死を、法廷は「公務災害」と認定した。
遺された日記と裁判の経過を辿りつつ、見えてきた教育現場の過酷な現実とは!
一人の教師を追いつめたこの事件(裁判)は、いま、日本の教育が抱える様々な課題(子どもの見方、指導のあり方、新採研修や教師の育成、教職員の関係、保護者との関係など)をめぐって本日的な問題を提起しています。
昨年12月16日、静岡地裁で画期的な判決がくだりました。二〇〇四年九月、静岡県磐田市で小学校教諭をしていた木村百合子さんが焼身自殺したのは仕事上のストレスによるうつ病が原因だとして、「公務災害ではない」と判断した地方公務員災害補償基金静岡支部の認定を取り消すよう、両親が求めた訴訟でした。
教壇に立ってわずか半年、彼女の死は追いつめられ、追いつめられた果ての悲しい死でした。担任したのは4年生32名の学級。そこに、生育困難を抱え、発達障害を疑われる男児が在籍していました。その子を中心に荒れる教室。担任に向かって容赦なく飛んで来る罵声、暴力……。その子が抱える心の闇をどう受け止めるたらいいのか、悩み苦しみ、周囲に助けを求めるのですが、適切な援助の手はさしのべられないまま、一方で、先輩教師から飛んできたのは「アルバイトじゃないんだぞ。ちゃんと働け」という叱声でした。
自死に至る一カ月前の彼女の日記には、「生きているのがつらい 生きているのがつらい」「神様 助けて 助けて 私を助けてください……」という悲痛な叫びが綴られています。
いったいなぜ教育の現場でこんなことが起きたのか? 教師の労働現場はどうなっているのか、裁判で問われたのはまさにそのことでした。
いま学校には苦しんでいる先生たちが大勢います。心を病む教師、病気で中途退職を余儀なくされる先生、問題は、新採教師のことだけではないのです。
私たちはこの本を編むにあたって、この事件(裁判)が日本の教育のあり方(子どもの見方、指導のあり方、新採研修や教師の育成、教職員の関係、保護者との関係など)をめぐって本質的な問題を提起していると思い、何が問題か、どう変えればいいのかを問うことで、「悲劇」を再び繰り返さない、この国の教育を変えていく本にしたいと願いました。そしてできあがった本は、ずっしりと重く、多くの人たちの心を揺さぶらずにはおかない内容になったと自負しています。
木村百合子さんを自死へと追いつめたもの――蓮井 康人
異常な労働環境が教師と子どもを苦しめる――小笠原 里夏
■第Ⅰ章 陳述書・母の証言
★《1》百合子の性格など
★《2》大学卒業後の生活の様子
★《3》採用されてからの生活スタイル他
■第Ⅱ章 遺されたノートから
木村百合子さんの軌跡を追って――佐藤 博
★新採教師、木村百合子さんの一八二日
★四 月
★五 月他
■第Ⅲ章 公務災害認定をめぐる闘い
地方公務員災害補償基金への申請から裁判まで――橋本 正紘
★長い闘いのはじまり・地公災基金の壁は厚く
★支援する会の結成
★傍聴席埋めた支援の人々他
■第Ⅳ章 木村事件が教育の現場に投げかけた課題
〈分析1〉困難な課題をもつ子どもの担任を支えるためには何が必要だったのか?
――楠 凡之
1、A君の抱えていた問題をどう理解するのか?
2、困難な課題をもつ子どもへの理解と援助のための二つの視点他
〈分析2〉法廷・裁判・判決が教育について問うたもの――久富 善之
〈1〉新採教師が直面した学級の今日的難しさについて
〈2〉困難に直面する教師に対する支援はどのようであって支援たり得るか他