梅田正己のコラム【パンセ9】  災害列島の安全保障

豪雨災害で土砂に呑み込まれた家々の様子を映すテレビを、毎日、胸を痛めて見ている。同じような光景を、もう何年見続けてきただろうか。この私たちの列島が災害列島であることはもはや否定できない。


 ではこの災害列島における安全保障とは何だろうか。安倍首相は国の安全保障とは国民の生命、財産を守ることだという。ならば、毎年襲ってくる自然災害の脅威に備えることこそ安全保障の第一の目的ではないのか。


 米朝首脳会談の実現によって「北朝鮮の脅威」は遠のいた。もはやミサイル防衛に巨額の国費を投じる必要はない。投じるべきは災害に備えての大規模な「国土防衛」の対策事業である。

 自衛隊の準機関紙「朝雲」によると今回の災害救助で出動した隊員数は3万という。自然災害への対策こそが国の安全保障の第一命題であるなら、自衛隊の半分を国土防衛・災害救助の専門部隊に再編すべきではないか。


 自民党はあれだけの非行を重ねながらなお40%の支持率を保っている。最大の理由は取って代われる野党がないからだ。野党もこのくらいの根本的提案をぶつけて議論を挑んでみたらいいと思う。




■追補

 いまや国の「安全保障」の最大かつ喫緊の問題は「国土防衛」ではないか、したがって自衛隊約5万の半分を割いて「国土防衛・災害救助の専門部隊」を新編して「国土再構築」の対策に当てるべきではないかという上記の私の主張に対して、実は80年以上も前の1936(昭和11)年に寺田寅彦が同様の提言をしているということを、川崎で『徒然の記』という個人文集を発行している笹岡敏紀さんから教えていただいた。


 
 「天災と国防」(『筑摩日本文学34 寺田寅彦』所収)

(前略)「想うに日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸海軍の外にもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。陸海軍の防備がいかに十分であっても肝心な戦争の最中に安政程度の大地震や今回の颱風あるいはそれ以上のものが軍事に関する首脳の設備に大損害を与えたら一体どういうことになるであろうか。そういうことはめったにないと云って安心してよいものであろうか。」(後略)

 
 1936年といえば、2月に2・26事件、11月には日独防共協定と、日本が本格的に軍国主義体制へ突入しつつあった年だ。そういうときに寺田寅彦はこんな文章を書いているのである。その科学的思考と精神は見事というしかない。

 なお寺田寅彦といえば、「天災は忘れたころにやってくる」が有名だ。しかし今や日本列島は「忘れようにも忘れられないうちに」災害に見舞われる事態となってしまった。

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