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梅田正己のコラム【パンセ4】 熊本地震の現実の「恐怖」と北朝鮮の幻の「脅威」
今回の熊本地震が与えた最大のメッセージは、日本の「安全保障」にとって最も切実で差し迫った課題は、自然災害にいかに備えるかということだ。
何しろこの列島には、東から太平洋プレート、南からフィリピン海プレートが迫り、地下には2千本以上の活断層が走っている。全国どの地域であっても、いつ驚天動地の災害に襲われるかわからない。これ以上の「脅威」があるだろうか。
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ところがこの国で語られる「脅威」は外国からの侵略の「脅威」ばかりだ。
昨年は強行に強行を重ねて、11もの法律を束ねた安全保障関連法を成立させ、この3月末からそれが施行され始めた。
この安保法を通すのに最大の理由とされたのが、北朝鮮の「脅威」だった。
では、北朝鮮はどんな利益を求めて日本に攻めてくるのだろうか? 日本にはさしたる資源はない。人間だけはふんだんに存在する。それを北朝鮮が70年前の米国のように占領して統治することができるはずがない。北朝鮮が日本を攻撃する理由はどこにもない。
それでも、いや、あの若い独裁者は何をしでかすかわからない異常者だ、どんな気まぐれで日本にミサイルを撃ってくるかわからない、と言う人があるかも知れない。
しかし彼の言動からそれは否定される。彼は親族や側近を含め数多くの要人を粛清してきた。なぜか。自己の独裁を脅かす危険を事前に除去するためだ。
また彼は各所に出かけて、指示・指導する姿を映させ、テレビで流す。自己の独裁者としてのイメージを固め、広げるためだ。
つまり彼にとって最重要なのは、独裁者としての自分なのだ。その独裁者は、もちろん「国家」がなければ存在しない。
ところで、彼が日本へ、あるいは韓国へミサイル発射を命令する。その一発に対してはたちまち百発の返礼がとどく。軍事力の落差は周知の通りだ。北朝鮮という「国家」は消滅する。同時に独裁者も消滅する。
そういう危険を、独裁者の地位にあれほど執着する彼が犯すはずはない。
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では、なんで北朝鮮はミサイル開発と核実験にあんなにこだわるのか? 日本や韓国を攻撃するためには、射程1500キロのノドンで十分だ。しかし北朝鮮はその後、テポドン(射程2000キロ)、ムスダン(同3000キロ)と開発を進めてきている。なぜか? 目標がアメリカ大陸だからだ。
66年前、北朝鮮は米韓軍と朝鮮全土を戦場にして戦った。63年前、休戦協定を結んで戦火はやんだが、潜在的な戦争状態は今も続いている。アメリカは韓国に陸空軍の基地を持ち、毎年、北朝鮮を仮想敵とする大規模な合同演習を行なっている。
この潜在的戦争状態を打ち切るには、休戦協定を平和条約に切り替えなくてはならない。そのためにはアメリカと直接交渉をする必要がある。しかしアメリカは一貫してその北の要求を無視してきた。
それで北朝鮮は必死でミサイル開発と核実験にとりくんでいるのだ。核弾頭を搭載したミサイルが一発でもワシントンに届くことになれば、アメリカ政府はいやでも北の要求に応じざるを得ないだろう、と。
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以上が、北朝鮮がミサイルと核開発に躍起になっている極めて簡明な理由だ。ところがメディアはそれを「国際的な脅威」にすりかえ、テレビは若い独裁者の姿をくり返し揶揄的に流して「異常な国」の「異常な独裁者」の「脅威」を視聴者の無意識に埋め込む。
「北朝鮮の脅威」は幻想にすぎない。地震、火山の噴火、津波、台風、集中豪雨など自然災害こそが、この列島(日本国)の現実の脅威なのである。
必要なのは、安保法などを作って自衛隊の海外派兵の準備を進めることではない。自衛隊を改編して、少なくとも半数を災害救助隊に専門化することである。熊本地震の恐怖がそう教えている。
(2016年4月19日 記)