≪おすすめ本≫ 梅田正己『日本ナショナリズムの歴史』 今井康之(JCJ出版部会)

著者梅田正己さんと筆者はJCJ出版部会やマスコミ九条の会で活動を共にしてきた仲間である。
この縁で私は、原稿段階から最初の読み手になった。読後の感想は「面白くて止められない!」の一言に尽きる。  

以来、これが本になったら一人でも多くの人々に広めたい、この本で日本を変えてみたいとの思いを強くした。
このような次第で今回、本書の紹介を買って出た。



前人未踏の著作誕生!

あの惨憺たる敗戦を経ても断絶することなく地底に生き続けてきた天皇制に基づく国家主義。
これを基軸に据えた自民党改憲草案。

著者はこの草案を「戦後保守イデオロギーの集大成」と規定し、そのしぶとい延命の歴史的究明を自らに課した。
この問題意識こそが著者をして「日本ナショナリズムの歴史」を執筆せしめた最大の動機である。

これまでにも、この主題に取り組んだ学者はいたが果たせなかったと著者は記している。

梅田さんは出版社勤務を経て1972年に高文研を創業し、編集者・執筆者として縦横無尽の活躍をしてきた。
梅田さんの一貫した出版理念は、目の前に生起している重大な社会問題の本質を解明し、広く闘う論理を提起することであった。


五年前、40年間も経営の陣頭に立ち続けた社を引退した。
それ以後、学者ではないという地の利を存分に活かした本書の執筆に没頭し、このほど、ついに4冊本として完結させた。

前人未踏の書である。



日本近代史の泰斗、中塚明・奈良女子大学名誉教授が、本書刊行に寄せて、こう述べている。

〈この「神権天皇制」を軸とした「日本のナショナリズム」の成り立ち、発展、変ぼう、そして今日にいたる歴史を、
日本ではじめて系統的に明らかにしたのがこの本です〉




本書の読みどころ


著者は日本ナショナリズムの源流を本居宣長に据えた。
この新説は学界にも一石を投じることになるだろう。

ここを起点に神話時代にまで遡り、天皇家代々の歴史や権力による利用の過程を具体的かつ論理的に明らかにし、維新以後の近代天皇制の成立過程から今日の政治状況にまで繋げて、その果たした役割を解き明かす。


文体は広い読者を想定・期待して「ですます調」。
書き進めながら著者は内なる読者と問答し、飛躍に気付いたり、疑問が生じたりするとそれを補う。
全編を通して、さながら推理小説に似た手法を駆使して、読者を飽きさせない。


各巻のタイトルは著者のオリジナリティの極であり、内容も見当がつく。

特に第Ⅳ巻は読者にとっては同時代史であるから、自分史を重ねてみれば歴史的位置づけができて有意義である。

 
各巻に付された「あとがき」は圧巻。
第Ⅱ巻では明治維新の始期と終期を問うている。
諸説を総覧すれば60年もの幅があるとして、説得力ある自説を提示している。
第Ⅲ巻では年配者には馴染みの「皇国史観」に替えて、「神話史観」という新語を創出した。




近現代史を学ぶ運動を


著者は2004年以来、全国津々浦々に広がった7千5百にも及ぶ「九条の会」の実践に学んで、近現代史を学ぶ市民運動を呼びかけて、結びの言葉にしている。

 
いま我々は安倍政権と全面対決している。
これは不可避な闘いだ。
我々は明治以後アジア太平洋戦争に至った歴史を根底から総括し、その国家主義の根を断ち切ってこなかったからである。



 
著者は第Ⅳ巻「あとがき」で身上を記した。
昨年5月、治療法のない難病に冒され生死の境をさ迷った。
介護に献身した夫人が11月に病没した。
脱稿までは未だ遠かった。
私は気が気ではなかった。
幸い小康を得て、今年の9月1日まで書き続け、出版に漕ぎつけた。
天祐である。

 

このような構想力と筆力を持った人材がJCJ会員であるのは心強い。

今井康之(JCJ出版部会


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